Wataru Matsuoka, Hideto Ito,* Kenichiro Itami*
Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 12224. DOI:
[ベンゼン環の拡張]
縮環π拡張反応(APEX: Annulative Pi-EXtension)は一段階で芳香環のC–H結合を直接変換しながら新たにいつ以上の縮環芳香環を構築する反応であり、近年我々が提唱する新しい反応概念でもあります(詳細は総説参照:Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, early view)。今回我々は、多感芳香族炭化水素(PAH)を直接原料に用い、市販のパラジウム触媒とジヨードビアリールを作用させることで一段階でナノグラフェンへと変換できる新しいAPEX反応を開発しました。本反応はフェナントレン、ピレン、コアニュレンといったPAHをはじめ、チオフェン、ピロール類なども基質として用いることができ、事前官能基化(ハロゲン化や金属化)などを必要とせずに一段階でπ拡張PAH、ナノグラフェン、π拡張ヘテロ芳香環などを得ることができます。特に、クリセン(chyrsene:下図)、1,1′-ジヨードビフェニルを用いると、クリセン上の5つのC–H結合を直接的かつ同時にアリール化することが可能であり、湾曲部位と平面部位を兼ね備えた新しいナノグラフェンが合成できることを見い出しました。このナノグラフェンは結晶および粉末固体状態中で効率的な一次元π-πスタッキングしていることがわかり、有機エレクトロニクス材料への応用などが期待されます。
開発者からのコメント:
松岡和君(修士2年生、写真左)
今回のAPEX反応は僕にとって非常に思い入れのある反応です。同じような分子変換反応は既に当研究室で開発されていましたが、APEX反応の実用性の向上や今後の応用展開を視野に入れ、より一般性の高い反応条件の探索に取り組みました。文字通り、0からの反応開発であり、ガスクロマトグラフィーで初めて目的物のピークが見えたときは嬉しさのあまり一人で震えました。また、偶然の発見ではありますが、APEX反応とScholl反応が同時に起こる反応条件の発見も印象深いです(上図)。低収率に留まっていることは残念ですが、簡単に大きなπ共役系を構築でき、「カッコイイ反応」を開発出来たと思います(笑)。本論文は、第一著者として初めての論文であり、論文作成の大変さなど、多くの事を学べました。今後も本研究で得た知識や技術を元に、よりカッコイイAPEX反応を開発したいと思います。
伊藤英人講師(写真右)
第一世代のAPEX反応(Nature Commun. 2015)の開発から2年強が過ぎ、第二世代APEX反応の開発にむけ松岡君は4年生から日々奮闘してようやく掴んだ成果です。反応系は市販のPd触媒を使ったいたってシンプルな系に偶然か必然か至りましたが、ここに至るまでに様々な可能性を模索して松岡君が一人で2000以上の実験を行ってくれたからこそ発見できた自慢の反応です。おめでとう!