Hideto Ito,* Kyohei Ozaki, and Kenichiro Itami*
Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 11144–11164.. DOI: 10.1002/anie.201701058.
[APEX反応]
近年、多環芳香族炭化水素(PAH)、ナノグラフェン、π拡張ヘテロ芳香族化合物といったπ拡張芳香族化合物類が有機EL、有機半導体などへと応用され、注目が集まっている。これら一連のπ拡張芳香環は一般に、ベンゼン、ナフタレン、チオフェン、インドールといった「官能基化されていない」芳香族化合物を用い、ハロゲン化、金属化など「事前官能基化」を行なったのち、カップリング反応、酸化反応などを経てπ拡張芳香族化合物へと変換されるため、反応工程が多段階になってしまうという問題点がある。これに対し、近年我々は官能基化されていない芳香族化合物を原料に用いて一段階で縮環芳香環を構築する手法を「縮環π拡張(APEX: Annulative Pi-EXtension)反応」と名付け、実際にいくつかの新しいAPEX反応の開発に成功している。本総説では、我々の反応を含め、これまで知られている反応でAPEXに分類できる反応を紹介し、π拡張PAH、ナノグラフェン、カルバゾール類、ベンゾチオフェン類などの合成や反応後期修飾に非常に有用であることを解説する。
執筆者・伊藤英人講師からのコメント:
我々の主要研究テーマであるAPEX反応を実際に俯瞰的に見て、現在APEX反応に分類できるものを集め、初代APEX開発者の尾崎恭平君(2016年博士過程修了・化学系企業就職)と一緒に書き上げました。比較的反応性に富むインドール、チオフェンなどヘテロ芳香環のAPEX反応の例は非常に沢山ありますが、ベンゼン・ナフタレン・PAHを用いたものは我々の例を含めても非常に数が少ないことがわかります。論文審査時、あるレフェリーから「APEX反応は一つの反応ではなく、全く新しい反応概念・定義であり、Sharplessが初めて論文でClick Chemistryの概念をもたらした時のことを思い出させる」と賛辞していただいたことが非常に嬉しかったです。実際、Fridel–Crafts反応、Diels-Alder反応、C–H結合活性化など手段を問わず様々な反応を駆使して縮環π拡張を「一段階で」達成しているのがAPEX反応です。まだまだ例は少ないですが、他の研究者も徐々に「APEX」という言葉を論文中で使ってくれつつあります。今後とも我々がAPEXの先駆けとなり続けられるよう研究を進めて行きたいです。