Masakazu Nambo and Kenichiro Itami Chem. Eur. J. 2009, 15, in press.
DOI: 10.1002/chem.200900022
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Pd触媒を用いたヒドロフラーレン類のC–Hアリル化反応の開発
フラーレンと有機ボロン酸の触媒反応は、多様な置換ヒドロフラーレン類を合成する際の一般的な手法となる。次に我々は、このように合成できるヒドロフラーレン類の化学変換法を開拓することとした。特に、ヒドロフラーレン類のC–H結合が高い酸性度をもつことに着目した。脱プロトン化によって生じるフラーレンアニオンが、その構造のもつ高度な共役により安定化されるからである。この高い酸性度を活用するならば、遷移金属触媒を用いてC–H結合を多様に化学変換できると考えた。その結果、Pd触媒を用いると置換ヒドロフラーレン類のC–H結合でのアリル化反応が進行することが明らかとなった。触媒としてはPd(0)/P(OPh)3が、アリル化剤としてはアリル炭酸メチルが最も良好な結果を与えた。
ヒドロフラーレン類のC–H二量化反応およびC–C切断反応の発見
前述のアリル化と同様、Pd触媒C–Hアリール化も進行することが明らかとなった。触媒としてはPd(0)/PCy2(o-biphenyl)が、アリール化剤としてはヨウ化アリールがそれぞれ最適であることが明らかとなったが、原料が完全に消費されているにもかかわらず、アリール化生成物の収率は低いことがわかった。反応溶液を詳細に検討した結果、ここで2つの新反応を発見することができた。アリール(ヒドロ)フラーレンの反応においては、C–H結合での二量化が進行し、ユニークなフラーレンダイマーが得られていることが明らかとなった。Pd触媒なしでは二量化は進行しない。アルキニル(ヒドロ)フラーレンの反応においては、二量化は進行せず、フラーレンそのものが得られていることが明らかとなった。本反応は、C–C結合切断反応であるとともに、これまでにない形式のフラーレンの「脱保護」反応である。そこで、触媒の再検討を行った結果、Pd(OAc)2/P(o-Tol)3が最適であることがわかり、トルエン、100 °Cという条件下でフラーレンが79%の収率で得られた。また、フラーレン上のアルキニル基と水素原子は末端アルキンという形でフラーレン骨格から除去されていることも明らかとなった。