Uehara, T. N.; Mizutani, Y.; Kuwata, K.; Hirota, T.; Sato, A.; Mizoi, J.; Takao, S.; Matsuo, H.; Suzuki, T.; Ito, S.; Saito, A. N.; Nishiwaki Ohkawa, T.; Yamaguchi-Shinozaki, K.; Yoshimura, T.; Kay, S. A.; Itami, K.; Kinoshita, T.; Yamaguchi, J.; Nakamichi, N.
Proc Natl Acad Sci USA 2019, Latest Articles. DOI:10.1073/pnas.1903357116
植物の生物時計においてカゼインキナーゼ1ファミリーはPRR5とTOC1を制御する
地球上の生命は、生物時計の働きによって、昼夜と季節の環境変動に適応する能力を備えています。真核生物の生物時計は、進化発生系統に特有な遺伝子群の転写翻訳フィードバックループ(TTFL)で成り立っていると考えられています。翻訳後のタンパク質修飾も真菌や動物の時計機能に必要ですが、植物の時計に影響を与える翻訳後修飾はほとんど理解されていませんでした。今回私たちは、化学・生物学の融合的な研究によって、モデル植物シロイヌナズナのカゼインキナーゼ1ファミリー(CKL)が植物時計の翻訳後修飾に関与していることを見出しました。まずシロイヌナズナの時計を撹乱する化合物スクリーニングを実施し、動物のCDC7/CDK9阻害剤として知られていたPHA767491が時計周期を延長することを発見しました。つぎにPHA767491の分子プローブを用いたアフィニティープロテオミクス解析(標的探索)によって、PHA767491が複数のCKLタンパク質に結合し、それを阻害することを明らかにしました。シロイヌナズナのCKLをコードする遺伝子群の一括的な発現抑制は、PHA767491と同等の効果(時計周期の延長)を与えました。CKLファミリーの1つであるCKL4は植物時計で重要な役割をする転写抑制因子PSEUDO-RESPONSE REGULATOR 5 (PRR5)およびTIMING OF CAB EXPRESSION 1 (TOC1: 別名PRR1)を試験管内でリン酸化しました。 植物へのPHA767491処理は、PRR5とTOC1の高蓄積を導きました。PHA767491の周期延長効果は、prr5 toc1二重変異体において減弱することも突き止めました。遺伝的冗長性の問題によってこれまで見逃されてきた植物カゼインキナーゼ1は、進化発生系統に異なる生物の生物時計でも働くことが知られています。したがって今回の発見は、時計の分子進化の観点からも興味深い知見を提供することになりました。