Kanna Fujishiro, Yuta Morinaka, Yohei Ono, Tsuyoshi Tanaka, Lawrence T. Scott, Hideto Ito,* and Kenichiro Itami*
Submitted to ChemRxiv. DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-k4z34
J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 8163–8175. DOI: 10.1021/jacs.3c01185
名大プレスリリースも合わせてご覧ください [Nagoya University Press Release]
ナノグラフェンはベンゼン環が平面上に複数つらなった芳香族炭化水素の総称であり、多環芳香族炭化水素とも呼ばれており、有機電子材料をはじめとした機能性材料への応用が期待されている物質です。ナノグラフェンは燃焼後のすすや石油中、土星の環や星間物質中にも含まれるほど自然界では身近で豊富な物質ですが、実際に基礎研究や材料への応用を行うためには、有機合成によって構造を原子レベルで精密に制御して合成する必要があります。
本研究では、ナノグラフェンを合成する最終工程で必ず必要となる脱水素環化(通称グラフェン化)において、従来の手法の欠点や問題点を解決した新手法を開発しました。従来法の欠点は自然発火性の高いカリウムを用い、アルゴン雰囲気下、加熱有機溶媒中での10時間以上の長時間反応という過酷な条件でしたが、新手法では空気中での比較的安全に取り扱い容易なリチウムを用い、有機溶媒をほとんど使わない(従来の250分の1以下)固体状態での迅速合成(反応時間最短5分)が可能となりました。新手法の実現には、ボールミルと呼ばれるステンレス製の容器とボールを用いた粉砕機によって、固体反応剤どうしを有機溶媒に溶かすことなく機械的に混合攪拌して反応(メカノケミカル反応)させたことにあります。この手法によって、特殊な処理をすることなく市販のリチウムワイヤーからハサミで切り出した金属リチウム片を用いることが可能となっただけではなく、有機溶媒中で行われていた従来法に比べて、コスト・反応時間・安全性・大量合成の可能性の全ての点で優れた画期的な手法です。また、これまで合成不可能であったクインテリレンをはじめとする20種類以上のナノグラフェンの短時間・高効率合成が可能となりました。
本研究は、ナノグラフェンをはじめとした機能性芳香族化合物の研究の発展に大きく寄与するだけでなく、化学工業的にみても従来法にとって代わりうる新手法を提案する画期的な成果です。
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